フィギュアスケートのシーズンというと、
素人の身で検索を掛けたところ、4月半ば、国別対抗戦辺りが最終で
次のシーズンの開催は9月の半ばあたり。
氷上のバレエというだけあって、ウィンタースポーツだもんなと納得しておれば、
だが、国際競技会は早ければジュニアのそれが8月中に催されもする。
そういや南半球は夏と冬が逆だった。(参考に検索したジュニアの競技会はアジア大会だったけど)
それにそれらはあくまでも“競技会”の日程の話で、
そこへの出場を懸けてという選考会はそれらより前に行われるわけだし、
何より日々のポテンシャルの維持というのも大切。
初夏から秋にかけては体力付けます、勿論 感性も磨きますよ。
ハーフマラソンして、バレエのレッスンをこなして、
夏期なのだからとプールでの歩け歩け持久走やバタフライも取り入れて…と。
結構ハードなメニューを 体力自慢の敦ちゃんがさくさくとこなした昨年の話、
スタッフチーフの太宰さんが持ちかけたらば、
向こうのチーフの中也さんがそれはいいと乗って来て。
膂力はこれから、でも柔軟性は落ちるのが成年男子のネックであり。
スタミナも結構ついちゃあいるが、かつての彼に比すればの話で、
スポーツの一線級で活躍するにはまだまだ足らぬと、
トレーニング方法を考えあぐねていたらしく。
だったら…との結託、もとえ合意が結ばれて
高校生より休みが長い大学生を代表に据えた横浜チームが
夏休み後になろう新年度の予定の刷り合わせや調整を兼ねて
夏季遠征の予行演習をしに来たのが、
元号変わりましたという歴史的な変動があったGWのこと。
北海道ほどではないが、それでも桜が本土で一番遅くに北上する土地であり。
結構天候が荒れまくったGWだったがこちらは何とか好天だったところへの
仲のいい気の合う面子らのご来訪。
学生の世代たちは
長期休暇だのに混雑を先読みした大人らにより
お出掛け禁止もやむなしとされて塞ぎかけてたらしく。
そこへと持ち上がった合宿話には大はしゃぎ、
やって来たお馴染みさんたちを出迎えた顔ぶれの中、
「久し振り〜〜っ。」
特段にはしゃいでのこと、
お揃いの如くに痩躯な黒騎士の君へ
白虎のお嬢が 恐れもなく飛びついて歓迎すれば。
彼らの“事情”は重々ご存知な上で、それでも微笑ましいなと、
ひゅうひゅうという冷やかしの声が上がったけれど。
「……。」
当の本人はと言えば…特に 嬉しそうになるでなし、
はたまた照れ隠しからの反動で突っ慳貪になるでもなくの、
何とも微妙な、あえて言うなら無言の“真顔”でおり。
そうまで意表突きましたか? それともそこまで朴念仁かと、
妙な空気感へ周囲がざわめきかかったそのギリギリ手前にて。
落ち着き払ったまま ぼそりとこぼした一言が、
「…いい肉づきになったな。」
「〜〜〜言い方。////////」
それは冷静な声音での、
密着した胸元ではなく 二の腕を見やっての物言いへ。
何だそれと、含羞むでなくの むうと頬を膨らましたお嬢さんも、
いい勝負の不貞々々しさといえ。
それでもご不満はご不満ではあったらしく、
どうせ気がつくなら胸とか腰とか
いやいや そっちはさして変わってないから…目視で確かめなくっていいからと。
余計なことを言って自爆してしまい、
ゆでだこみたいに真っ赤になったスズラン娘。
今度こそそれは判りやすい可愛らしさへ、
一同がますますと笑った朗らかな初夏だったりするのである。
◇◇
かつてなのか、もしかして並行世界とかいう別次元のお話か。
魔都ヨコハマの裏社会の雄、ポートマフィアの遊撃隊を任されていた殺人鬼と、
それへ反目する正義の徒、武装探偵社の期待の新人という格好で、
会えば 敵対者めがとの揮発性も高いまま喧嘩腰になってたはずが、
もっと上の次元から襲い来た巨悪へ共闘という形で何度も対するうち、
死線を渡り合うよな修羅場で真剣本気の呼吸を読めるようになり、
自身が見込んだ存在なのだ、やすやすと雑魚にやられるなと思うようになり、
気がつけば至上の存在だと認め合っていたらしく。
だというに
勝手に自分を庇って逝くなんてと、ご立腹だった敦ちゃんへ、
済まない、死など恐れぬし後顧の憂いもなしと高をくくっていたものだから、
死んでしまったら弁明できぬことが慮外だったと、
聞きようによっちゃあ随分と間抜けな言い訳をした芥川青年の謝罪を受け、
現世での再会をあらためて喜び合ったのが先の冬。
そんな格好で よりを戻して以降、本命真摯な想いを告げ合ってはおり。
数奇な記憶を共有する周囲も それこそ自然な成り行きだとばかりに認識し、
ほのぼの見守っている“恋仲”の二人には違いなく。
「…?」
明日から早速、
基礎のトレーニングやらそれぞれの技術への調整やら向上プログラムやら、
本格始動してゆくからねと指導陣営から告げられての
各々リラックスして過ごしてねとされたフリータイム。
クラブハウス内の私室にて、
積もるお話と運ぶ前に“お茶でも淹れるね”と
茶器を揃えてあったサイドテーブルへ敦嬢が向かったところ、
「……。」
自宅のような施設だし、これでもちょっとした家事手伝いは手掛けているので、
いくら深窓のお嬢様でも お茶だって上手に淹れられる。
だということを知らぬのか、それとも危ぶまれたものか、
何だか意味ありげな視線を感じてしまい。
肩越しに振り返れば、初夏とあって結構ラフな装い、
上着はなしのままの チノパン風のパンツに長袖シャツという装いで
ソファーに腰かけている芥川がこちらを見やっており。
“綺麗なんだよな、ホント。”
あのかつての初対面の折、余裕からだろうそれは落ち着き払った顔だった。
とはいえ、すぐさま悪鬼の形相になってしまったし、
絶対の全く 一目惚れした覚えはないけれど、
漆黒の悪鬼は、最凶の存在としてそれはそれは冴えた印象の青年でもあって。
そんな見栄えなのだと意識したのはずっと後ではあるが、
意識してしまってからは ついつい見惚れてしまうから
罪なことこの上ない奴だったと白虎の姫が胸元をこっそり抑える。
“あんな別れを一方的に押し付けておいて、”
思い出したのはごく最近。
でもね、一気に膨れ上がった記憶と想いはそりゃあもうもう
___ 熱くて重くて、居たたまれないほどで
だから まずは勝手をしたことへの落とし前、
馬鹿だ馬鹿だと詰るように責め立ててしまい、
彼の側でも判っていたようで、それへの詫びはきっちりとしてもらってある。
いわゆる“鳬はついた”こととなっている。
だから…。
“だから…。//////////”
視線であちこち差すでなし、目を大きく見張るでなし、
勿論のこと、口許が笑うなり結ばれるなりと動くでもないというに。
ただ、こちらを見やったままでいるだけにしか見えぬというに。
「……。」
他に同じ空間に人影はないかと、素早く目線を巡らせて周囲を見回した敦ちゃん、
その視線を再び相手へ戻したところへ
それは自然な間合いにて すうと彼氏の両腕が上げられたものだから、
「……。///////」
泡雪のようと評される真白き頬にそれは鮮やかにサッと朱が散って。
それを誤魔化したいものか 心持ち俯き加減になったまま、
たかたか速足でソファーへと寄ってゆく様は、
何かしらの魔法で操られてでもいるかのよう。
ありありと含羞んでおりますという顔色をしたままで、
歩み寄ったソファーの傍だったが。
自棄になったかそれとも ささやかな意趣返し、微かな抵抗のおつもりか、
貴公子殿の膝の上、腿へ横座りとなるよになってののしかかり、
実は結構しっかとした胸元へ ぱふりと寄りかかってしまわれるお嬢様。
はしたないのは重々承知、でもね、でもでも、
目顔で“おいでおいで”をされたのだもの。
しかもその上、さあと手まで上げられてはいけません。
そわそわに拍車も掛かって、足が勝手に動き出しちゃったまでのこと。
「もうもう、芥川のくせにぃ。///////」
「何だ、不満か?」
せめてと顔を隠すよに、相手の懐へ顔を伏せているのだが、
これって撫でて撫でてと甘えている図でしかなくて。
そのままさらさらと白銀の髪を指で梳かれつつ、
「……好きな人にしか こうまでしないもん。////////」
「…っ。」
意地悪言わないでよねと、
敦お嬢様、これでも仕返しっぽく悪態ついたつもりだったらしいのだが。
これって案外と不意打ちの告白にも通じたらしく。
「…芥川?」
「〜〜〜〜。////////」
彼もまた色白なその頬を赤く染め、
誤魔化すように掌で口許覆ってしまったのだったそうな。
◇◇◇
そういう人物という先入観が強いが
何も 365日の四六時中悪だくみばかりしている太宰ではない。(当たり前)
芥川が朴念仁なのは相変わらずだが、それでも。
ふと飛ばした目線だけで “来い来い来い…”なんて
敦ちゃんのこと間近まで呼んじゃえるようになったのは大進歩。
名を呼ぶのはちょっと照れ臭いから目線で呼ぶのだし、
睨まれてもない、呼ばれてると察して それが嬉しくてだろう
含羞みつつ ぱたたたッと小走りに寄ってくところの何とも初々しい可愛らしさが、
色々と懐深くて察しもいいスタッフたちにはあっさり見抜かれてのこと
微笑ましいねぇと一服の清涼剤扱いになってもいるらしく。
『関白ぶってなんかいませんて。』
『そうそう。』
と、当人たちは言っているが、
『ずぼらなだけですよ。』
『え〜? 甘えさせてくれてるだけでしょう?』
『それは、……うん。//////』
敦嬢の天然っぷりも結構な威力なようであり。
どっちが上位というわけでもないところもまた微笑ましいと、
太宰辺りは苦笑が爆笑になりかかるのを押し殺すのが大変ならしく。
今もそんなほのぼのしていた彼らを思い出してか、
資料を眺めていたはずが、ついのことくすすと頬笑んでおれば、
「何だ、また悪だくみかよ。」
不意を衝くように思いがけない声がかかる。
こちらは二階にある蔵書室の手前、
敦ちゃんの実家から持ち込まれた山ほどの本が収められている部屋の
すぐ手前のグルニエ風の空間で、
一応ソファーに腰かけてはいたものの、
膝に開いた本を読むでなく、
何やら視線を宙に留め、ぼんやりしていたのだから勘繰られても仕方がない
…と、太宰本人も思っておれば世話はなく。
それでも一応は、
「やだなぁ、せっかくのオフなんだし ぼんやりすることもあるさ。」
といいつつ、何の本だったかも思い出せないほどの放置状態だった上製本を再び見下ろす。
中島さんちの令嬢はちょっとおっとりしたひまわり娘だが、
運動神経ばかりが発達しているだけじゃあなく、なかなかの秀才でもあって。
多彩なジャンルにわたる蔵書を持っていて、何とびっくり政治学やら哲学書もあったりし。
半分ほどは太宰や乱歩からの感化もあるのだが、
そんなおかげさま、彼らのレベルに耐えうる本も揃ってはいる。
なので、どこの包装紙かピンクの花柄のお手製カバーが付いていても、
難しい本である可能性はなくはなく、
取り繕うように表情を改めた相手だったことへも
女丈夫さんはさして疑りを挟みはしなかったようではあり。
やや斜めに眇めた視線はそのまま、
「ほうほう、そりゃあお邪魔したな。」
せいぜいの厭味を込めた口調での応酬を返して来ただけだった。
太宰は元から流行を追う性分ではなく、
せいぜい自身の長身が悪目立ちせぬよう、
さりとて地味に作っても厭味なだけなのでと 多少は洒落心もあるよないでたちで通しているが。
転生した元五大幹部殿、
あのトレードマークだった黒帽子や革手套こそないものの、
お洒落なところは変わらぬようで。
とくにめかす必要はないとの平服らしいが、
足首まであろう丈のゆる生地のビッグパンツに
オーバーブラウス風の刺繍が散らばる更紗のブラウスと
内着のサテン地のTシャツの組み合わせはなかなかにフェミニンだ。
かつてはマフィア流のかっちりした格好が多かった反動か、
今生では ゆるくしゃファッションがお好きならしく。
鮮やかな赤毛のクルクルとしたくせっ毛なところや、小柄で一見 華奢な肢体と相まって、
はっきりとした目鼻立ちの華やかな美貌でも そういう柔らかな装いがようようお似合い。
先だっての騒動以降、微妙な告白もあったがため、
それでなくとも さりげなく向けていた意識や注視、
隠さずともよくなったと解釈をしてのこと、
視野へ入ればついつい視線をやるようになっておれば。
『……視線が五月蠅ぇ。』
『そんな言い方しなくても。』
敦ちゃんのよに含羞むなんてとんでもないない、
相変わらず素っ気ない言いようを向けてくる勇ましい武闘の嬢だったが、
「……。」
やや間合いを置いた恰好の位置からこちらを見やってた中也、
ふと、切れのいい脚運びでソファーの前までやって来るものだから、
“…?”
何だ何だ、何か怒らせるようなこと、したか言うかしたっけかと、
そうと思って仄かに警戒してしまう辺り、
これでも一応は愛しい人相手でもそういう思考になるところが困った御仁。
心あたりを探そうと思う反射の方向性をこそ何とかすればいいものだが、(笑)
とりあえずはと防御の札を探しつつ、
間近までへと歩み寄って来た ハマの美人特攻隊長様を見やっておれば、
「…。」
「えっとぉ?」
やはり無言のまま、ややその身を傾けて、
やおらこちらを覗き込んでくるところがいつになく大胆であり。
相変わらずに睫毛の長い美人さんだねぇ、でもでも、
何だ何だ、そうまで怒らす何を見つけたのだい?
私の態度って、そんな不遜だったのかい?と。
弁解満載な内心を抱え、
それでもでも表面上はキョトンとしているだけな風を装っておれば。
「…。」
あまり表情は動かぬまま、
それこそこっちを家具か何かでも見やるかのように覗き込んでいたそのまま、
そりゃあ無造作に本を取り上げ、サイドテーブルの上へと置いて。
「え?」
相変わらず 乱暴でがさつだが、この手の傍若無人は太宰が相手でも滅多にやらぬ。
憎まれを言いはしてもそこまでで、
彼女の物差しでの非力な相手へ 手を上げるのは卑怯となってのことかもしれぬが
……だとしたらしたで、ちょっとばかり とほほだねぇと思いつつ。
やはりやはり無言なままなのへ???と感じつつも したいようにさせておれば、
所在なさげなまま膝へ下ろしていた手を取って、
窓に掛けられたカーテンでも開くような所作にて、
向かい合う懐を容赦なく左右に割っての開かせる。
“え?え?え?”
と、怪訝な感触が危機感へ転じる間もあらばこそ、
あっという間に膝から乗り上がっての とさんと腿の上へまたがってしまい。
かつてよりもやや増した身長差のせいでか、
その身が余裕ですっぽり収まる広々とした懐へ、
ぽそんと凭れてくるところまで一秒あったかどうかの流れ。
そのまま襟元掴まれて、自身の身ごと後背へそっくり返っていたならば、
巴投げ一本っ、と
豪快な技が決まっていたやもしれずな鮮やかさであり。
“え?え? え〜?”
うわ、ちょっと待ってよ、私ったら油断のしすぎかな。
でもこの子へ警戒してどうすんの、それこそおかしいじゃない。
それにこの体勢って、あのあのあのさ。/////////
何とか左脳をフル稼働させて状況へのお品書きを紡ごうとしておれば、
懐の柔らかい温みがごそりと動いて、
まろい頬は鎖骨の下辺りへ当てたまま、こちらを見上げてきたじゃあござんせんか。
「甘えてもいいんだなって思ってな。」
「あ。…そうなんだ。」
何だよ赤いぞ、手前 相変わらず なまっちろいから判りやすいなぁ。
う、うるさいなぁ。
可愛げが出たのは助かるがな。
……うん、ありがとぉ。//////////
仔猫が寝る姿勢を探るよな、
そんな身じろぎをごそごそと少しほどしてから、
何とか収まりのいい体勢となれたものか、
頬を寄せて来たそのまま 何とも軽い身をすっかりと凭れさせて来たので。
「……。」
しばらくは そんな感触を堪能していたらしい、包帯の策士殿。
ふと、大きくて頼もしい手を、それには見合わぬ臆病そうな様子で
恐る恐る懐の君の髪へと寄せてゆき。
小さな身じろぎを拒絶と思うたか、一瞬ほどひくりと総身ごと凍ったが、
懐の中也がくつくつ楽しそうに微笑ったその上、
何か小声で囁いたらしく。
それへと苦笑をしもってのあらためて、やわらかな赤毛を撫で始め、
甘い空間、紡ぎ始めたようでございます。
〜 Fine 〜 19.05.17.
*タイトルの和訳は“主導権”。でもちょっと斜め横になっちゃったかな?
結婚前の 新旧双黒それぞれの様子です。
GW終わったばかりでもう夏休みのような内容ってのも何なので
暦の方も少々遡ってみました。
北海道や北の方って天候荒れてなかった?とかいう話は置いといてくださいませ。(こらこら)
とりあえず、横浜組が優勢ですvv (笑)

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